タグ: KidsColor
元保育士が発信する子ども・保育士双方にやさしい「あそびプラットフォーム」 ‐KidsColor‐
保育園おちた日本死ね」という過激なブログが大きなニュースになったのも記憶に新しいが、昨今の待機児童、保育士不足の問題は働く母親には本当に深刻な問題である。Hipstartersでも保育関係の記事をいくつか掲載しているが、今回は元保育士をしており、現在はワーキングママとして働く雨宮みなみさんが実際の現場での体験や、自身の子育てを元に保育士、お母さん達を「あそび」を通じてサポートする「KidsColor(キッズカラー)」を取材した。
―「KidsColor」のサービスについて教えてください。
キッズカラーの軸になっているのは「ほいくる(HoiClue♪)」というサービスです。こちらはウェブサイトとアプリの2つのサイトがあり、子どもと楽しめる「遊びのレシピ」を提供しています。アプリに関しては、実際に子どもと楽しんだ遊びの様子をアルバムとして保存したり、他の人と共有することができます。ウェブサイトの情報をアプリでみることもできますし、逆にアプリで投稿したものを一部ウェブサイト上で閲覧することも可能で、この二つを通して「保育」と「遊び」のプラットフォームを作る、ということをメインとしてやっています。現在ウェブサイトは約60万人/月以上の方が見てくださっています。
他に「コドモガラクタラボ」という遊びの場の提供もしています。元々は、ほいくるで掲載している遊びの内容が、大人よがりの遊びにならないように、月2回このオフィスを使用し、私たち自身が子どもの遊び世界の触れ、学びや発見を得る場としてスタートしました。テーマを決め、牛乳パックや空き箱など身近な廃材を使ったりしながら、子どもが自由に遊べる場として運営しています。土曜日の10時から15時までの間、出入り自由、無料で開放し、家ではなかなかできない遊びも保護者と一緒に楽しんで頂いています。
親子で来て、大人の方が夢中になってしまうということもよくあるんですよ。
あそびを通して、子どもの頃を思い出したり、少しでも親子の時間が広がるきっかけになっていれたらという想いもあります。
もう一つ「ままくる」というものがあります。すべて「ほいくる」に紐づいているのですが、コンテンツ制作の一環として潜在保育士と呼ばれる、資格を持っているが現場では働いていない方や、子育て中のお母さんが、自分のアイディアや子どもとの遊びの様子をライターとして記事にし、原稿料として付与されるポイントをもとに本やおもちゃと交換できるシステムです。 子育てに少し余裕が出てきたお母さんが、空いた時間で自分と子どもとの遊びのアイディアや写真を執筆し、ちょっとしたお小遣いを子どものために使える、というイメージです。同時に、先輩保育士の経験を次世代の保育士に繋げることも、一つの目的としています。
―雨宮さんのバックグラウンド、また起業のきっかけを教えてください。
もともと保育士になるのが夢で、憧れの職につき6年間保育士として働きました。いくつかの職場を経験したのですが、そこでそれぞれの園によって考え方が全然違うということに気づきました。「保育とはこのようなもの」という概念で違う園に行くと「こちらではこれもいいの!?」という違いがたくさんあり、衝撃を受けたこともありました。私はたまたまいろいろな考え方に触れることができましたが、一か所の園で自分と合わなくてやめてしまう保育士さんもいるので、それはとてももったいないと感じたことがきっかけの一つです。 もう一つは保育士の業務がとても忙しくて、余裕がないということ。もちろん他の業種でも仕事は多忙で責任が伴うものですが、人生で大事な乳幼児期にずっと一緒に時間をすごす責任はとても重いのに、環境があまり良くないということに疑問をもちました。
また「子育て支援」はたくさんあるのですが「保育士支援」というものはほとんどありません。でも保育士がいなくなると子育てが成り立たなくなりますよね。保育士が子どもに与える影響は多大ですが、その保育士が疲れた顔で子どもに接するわけにはいきませんし、自分も日々保育士として働きながら、その点についてどうにかならないかと悶々としていました。
そういったことも踏まえ、現場の負担や不安や不満を何か楽しさなどプラスに繋げられることはないか考えているうちに、起業の前に「ほいくる」のアイディアが生まれました。担任として丸1年子ども達を受け持つ時に、経験のある先生と新しい先生が見るのではやはり違いが出てきますが、経験はすぐに身につくものではありません。では、どこで先生達がスキルアップするかというと、外部のセミナーに行ったり、数少ない保育関係の本を読むくらいしか、インプットの方法はありませんでした。情報収集ですら負担が多い時、疲れた帰り道にぱっと携帯を見ると、「これは子どもが喜ぶだろうな」と思わず子どもの姿を想い浮かべてニヤニヤしてしまうような情報源、そういうものがあれば、インプットをすると同時にもともと保育士の根底にあるモチベーションが引き出せ、どんなに忙しくても子どもの姿をおざなりにせずまた頑張るぞという気持ちになるのではないかと思いました。 「保育支援」というような大きなものではなく、「あそび」という正解のない、みんなにフラットなものでソフト面の支援をするのであれば、現場経験がまだ少ない私でも可能ではないか、と思ったのが「ほいくる」のスタートです。 「ほいくる」を運営していくにあたり、今後どうするか、また保育士との両立ができるかと考えているときに、受け持っていた生徒が卒園することと結婚のタイミングも重なって、本格的に起業を決心しました。ただ、子どもと関わっている時間が全くなくなるというのは自分にもサイト運営にもまだ心残りがあったので、1年目はパートで保育士を続けながらのサイト運営、2年目からはこの仕事だけにして現在に至ります。
-既存の企業、競合との差別化についてはどのようにお考えですか。またターゲットは?
現在保育業界は、ウェブメディア、人材・求人、業務の効率化する為の管理システム、保育園運営等たくさんの企業が参入してきています。ほいくるのようなメディアも、少しずつ増えています。
キッズカラーの強みはコンテンツの数と質、それから「現場視点」という所にあります。さらに、発信するだけではなく、アプリを通して実際の保育士も巻き込みながら作っていく、というところが差別化につながってくるのではないかと思っています。 また、ただの便利なサイトだけにはしたくない、という意識は常に持っていて、便利であることはもちろん大切ですが、その先に子どもの姿があるかということが大きな軸となっています。保育士だけが便利でも、子どもにつながらなければ意味がないので、そこは今後も大事にしていきたい所です。 子どもの姿に繋げるという点で、保育士の負担、不満、不安を、意欲、自信、楽しさに変えていける、という所も特色の一つだと思っています。
現在6割のユーザーが保育士で、他にも幼稚園の先生、ベビーシッター、学童の先生、子育て中のお母さん、あとは保育士を目指している学生にも広がってきていますので、その層をターゲットとしていますが、今後さらに、子どもに関わる人へと広げていく予定でいます。
-今後の展開、また海外への展開について教えてください。
今は保育がサイトスタートのはじめの1歩になっていますが、「遊び」というものは答えがないので、保育に限らず子育てや地域、社会にもっともっと広げて行けるものであろうと思っています。 今後は地域特有の遊び(例えば本格的な雪遊びなど)を強化していくことから、「世界ではどんな遊びをしているのだろう」というように世界に視点を広げ、どんどん遊びの幅を拡大していき、遊びの価値をより広く共有できるサービスにしていきたいと思っています。
-過去の投資、また今後の投資について教えてください。
これまでに数社から出資いただいています。
最初の出資をきっかけに、委托業務をやめて、ほいくるサイトの運営一本に集中しました。
当時、ほいくるは月額課金で運営しており、サイトも伸びてはきていたのですが、「課金」という所で、本当に使いたい人が使えないのではないか、自己満足になってしまうのではないか、ということがずっと頭にありました。 出資を機に無料化の方向へ舵をとり、まずは保育と遊びのプラットフォームを作ることに専念してきました。
価値をきちんと対価に変え、事業としてきちんと収益化して行くということを前提に、今後の資金調達を計画しています。
保育業界は少し特殊な部分もあるので、そこを理解し、実現したいビジョンに共感していただきながら、一緒に大きくして行ける企業や投資家と繋がっていけたらなと思います。
―一日のスケジュールを教えてください。
5:00 起床
7:30 子どもを保育園に送り、通勤(約1時間)
8:45-17:00 出社、ミーティング、外出等
17:00 保育園に迎えにいくため業務終了。お迎えがない日は、終電近くまで通常業務や会食等。
18:00 お迎え後、帰宅。食事等、家事。
21時頃、子どもを寝かしつけた後で家事、仕事。 寝る時間は決まっていませんが、大体1時〜2時など。 でも、子どもを寝かしつけたまま自分も寝てしまいあたふたすることもよくあります…。
-良く使用するアプリを教えてください。
「みてね」というmixiが出している写真アプリです。子どもの写真を簡単にアップし、祖父母、親戚、友達等と共有できるアプリで、妊娠中からずっと愛用しています。 記録として残しておける他、コメント機能もあり、遠方のおじいちゃんおばあちゃんとのコミュニケーションにも役立っています。
-お気に入りのハングアウト場所を教えてください。
最近あまり行けないのですが、天王洲アイルのBread Worksが大好きで、東京に住んでいたときは良く自転車で行って、運河を前に仕事に没頭いました。
-影響を受けた人物を教えてください。
いろいろ考えたんですが・・・宮崎駿さんです。小さい頃からジブリがすごく好きで、子どもながらに理屈ではなく、感じるもの、通じるものがありました。時を経て、自分が思春期や、大人になってから見ても、その時々で感じ方が全然違っていて、いつも新しい発見があります。 画像はもちろん、人間関係、家族の在り方、環境等、ファンタジーでありながら、現在の問題や人間の信頼関係を描いていて、後々考えさせられる深い部分がたくさんあるという点で、小さい頃から大きな影響を受けた人の一人です。
今後も高齢化社会が急速に進む日本において、保育園騒音問題など、様々な保育の問題が国会でも取り上げられている中で、「子どもが育てやすい環境」を作るのは困難になってきているように感じる。雨宮さんの話を聞いて、これからこの国を背負って行くのは現在の子ども達であり、子供達が笑顔で育つためには、笑顔の保育士も必要であることの重要性を改めて感じた。ネガティブな話題ばかりが取り上げられるが、「遊び」という大人も子どもも楽しめるコンテンツを通じて、保育士そして子育てを支援するという「KidsColor」が、地道に長く根付いて行き、保育業界を明るく変える手段の一つになるのではないだろうか。
テクノロジーとスポーツを繋げるKadho Inc. の記事はこちらから!