2009年頃から登山者が増え、2010年に「山ガール」という言葉が新語・流行語大賞にノミネートされたり、2013年の富士山の世界文化遺産登録など、すっかり趣味としての登山が定着したように感じる。 今回はGPSによる登山者の位置確認はもちろん、登山者への情報提供、登山者同志のコミュニティなども含めた地図アプリ、ウェブサービスを運営し、創業時から数々の賞も受賞している株式会社ヤマップ(YAMAP Inc.)の代表取締役 春山 慶彦さんにお話を伺った。
―YAMAPのサービスについて教えてください。
YAMAPは携帯の電波が届かない山の中でも、スマートフォンで現在地がわかるアプリケーションです。
現在、日本での遭難事故が過去最悪を記録しているのですが、そういった道迷いや遭難事故を1件でも減らすことができればと思い、YAMAPアプリを開発しました。
- 山で現在地がわかる安全性
- 紙の地図として持ち運べる快適さ
- 情報共有し合える山のSNS機能
この3つがYAMAPの大きな特徴です。
―現在の、YAMAPの収益モデルについて教えてください。
ユーザー向けには「サービスが先、利益は後」のスタンスをとっています。なので、今はまだユーザー規模を大きくし、ユーザー満足度を高めることを優先しています。
一方、登山・アウトドアユーザーにリーチしたい企業様向けには、商品販促のお手伝い、タイアップ広告等で収益を上げています。
他には、自治体向けに防災マップや観光マップを製作・配信しています。
-起業のきっかけを教えてください。
スマホの可能性に衝撃を受け、起業しました。
私が思うスマホの凄さは3つあります。
一つは通信機器と位置情報が結びついたこと。 スマホのおかげで、リアルとネットが好循環する時代がやって来たと感じています。
二つ目は、スマホが世界共通のデバイスであること。 スマホを通して世界中の人が通信でつながるようになったというだけではなくて、ソフトコンテンツを言語を変えるだけで世界中の人に届けられるようになった。これは非常に画期的なことです。
三つ目はスマホの“オフ”ライン利用の可能性。 現在、スマホをオンラインでどう活用するかというサービスは、ある程度飽和状態にあると感じています。ですが、オフラインでどう活用するかに関しては、まだまだ開拓の余地がある。山や海外では電波が入らないところがまだ多い。であれば、オフラインでスマホをどう活用するかという視点に立って、サービス開発をする方がユーザーの役に立つのではないか、というのが着想の根底にありました。
-なぜ登山・アウトドアをビジネスの領域に選んだのですか?
日本を含め、先進国の大きな課題は「自然に触れたり、自然の中で体を動かす機会が激減している」ことだと考えています。
日本においては、農業・漁業・林業等、自然の中で体を動かして生計を立てている第一次産業の割合が、就労人口の中でたった4%、数にして130万人程度しかいません。その内、6割は60代以上の高齢者です。 ということは、見方を変えると日本に暮らすほとんどの人は、自然の中で体を動かすということを日常的にやっていない・・・。
都市化の流れは今後も進んでいくと思うのですが、その反動として、大切な人と大切な時間を自然の中でゆっくりと過ごしたいというニーズも、振り子のように高まってくるだろうと予想しています。その意味で「登山・アウトドア」の可能性は今以上に増すと感じ、ビジネス領域を「登山・アウトドア」に絞りました。
-春山さんのバックグラウンドを教えてください。
出身は福岡県春日市です。
若い頃はスポーツばかりやっていました。登山を始めたのは20歳頃からです。
アラスカで写真を撮っていた星野道夫さんという写真家にとても影響を受けたこともあり、2005年から約2年半ほどアラスカに滞在していました。 2007年にアラスカから戻り、東京にある雑誌の出版部で働き、2010年から福岡で仕事をしています。
-ターゲットは? また競合との差別化について教えてください。
ターゲットは登山・アウトドアユーザーです。なるべく初心者の方たちに使ってほしいと思っているので、機能をたくさん詰め込むより、シンプルな設計、使いやすさを心掛けています。
競合との違いは「①山で現在地がわかる安全性、②紙の地図として持ち運べる快適さ、③情報共有し合える山のSNS機能。」この3つをYAMAPワンストップで提供している点です。
-過去の投資、また今後の投資について教えてください。
2013年10月のシード期に、サムライ・インキュベートから出資をして頂きました。2016年1月に、コロプラ、大和企業投資、ドーガン・ベータの3社から、シリーズA規模の資金調達をさせて頂きました。
今後については、事業シナジー高い企業様からの出資・資本提携を進めていきたいと考えています。
-一日のスケジュールを教えてください。
8:30 出社
18:00 帰宅
帰宅後は犬の散歩に行きます。週に一回ヨガ教室に通っています。
-良く使用するアプリを教えてください。
FBメッセンジャーなどのコミュニケーション系アプリでしょうか。社内のコミュニケーションツールとしてはSlackを活用しています。
-お気に入りのハングアウト場所を教えてください。
やっぱり山ですかね。福岡市近郊だと糸島にある二丈岳によく登っています。
-影響を受けた人物を教えてください。
星野道夫さんとジョゼフ・キャンベルさん(神話学者)です。
地味ですが、両親や家族からの影響も大きいと思います。
春山さんの言うとおり、現代人はなかなか自然に親しむ時間が少なくなってきているが、自然の中で体を動かしたり、自分を見つめなおすという時間を持ちたいという欲求は今後ますます増えるであろう。一方、登山者の増加とともに、遭難事故件数も年々増加しており、気軽に楽しむためには安全への知識や装備などにはまだまだ課題がありそうだ。 YAMAPの普及で、一人でも安全に自然と親しむ人が増え、心身のバランスが健康に保つことができるようになれば、より豊かな日本、世界に近づいていくことができるのではないだろうか。